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東京高等裁判所 平成元年(行コ)115号 判決 1991年1月31日

埼玉県川口市赤井一丁目二七番一九号戸田第一マンション三〇二号

控訴人

木村清

右訴訟代理人弁護士

難波幸一

同県同市青木二丁目二番一七号

被控訴人

川口税務署長江川治美

右指定代理人

浅野晴美

東清

丸山啓司

松沢敏幸

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し昭和五七年一二月一七日付けでした昭和五五年分所得税及び昭和五六年分所得税の各更正処分(昭和五五年分については裁決によって一部取消し後のもの)をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項同旨

第二主張

当事者双方の主張は、次のとおり補正するほかは、原判決の事実摘示「第二当事者の主張」(原判決二丁表初行から一三丁表七行目まで及び同添付別表一ないし別表六)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二丁裏一〇行目の「国税審判所長」を「国税不服審判所長」に改める。

2  同一〇丁表九行目の「同25のうち一八八〇〇円、及び同28のうち五六〇〇〇円を」を「及び同25のうち一八八〇〇円をいずれも」に改める。

3  同添付別表六の三行目の「一二万〇〇〇〇円」を「八万六〇〇〇円」に、七行目の「二三万一三六〇円」を「二二万〇二四〇円」に、八行目の「五二万〇二二〇円」を「六一万八二二〇円」に、一三行目の「外注加工費」を「外注費」に、一四行目の「二三八万一〇七五円」を「二三八万〇六五二円」に、末行の「一三八〇万四二六二円」を「一三八五万六七一九円」にそれぞれ改める。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の各書証目録及び各証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  控訴人の昭和五五年度及び昭和五六年度の各所得金額は、当裁判所の認定したところによれば、いすれも本件各更正処分(昭和五五年度については裁決による一部取消後のもの)に係る所得金額を上回るから、本件各更正処分は適法であり、控訴人の本訴請求は理由がないので、これを棄却すべきものである。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の理由説示ないし三(原判決一三丁裏初行から二一丁表七行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一七丁表三行目の「第二三号証の一ないし三」の次に「(同号証の二、三は原本の存在及び成立に争いがない。)」を加え、三、四行目の「第二〇、第二一号証」を「第二〇号証、第二一号証の一、二(同号証の二は原本の存在及び成立に争いがない。)」に改め、四行目の「第二六号証の一ないし三」の次に「(同号証の二、三は原本の存在及び成立に争いがない。)」を、四、五行目の「第二五号証の一ないし三」の次に「(同号証の三は原本の存在及び成立に争いがない。)」を五行目の「第二八号証の一ないし五」の次に「(同号証の三ないし五は原本の存在及び成立に争いがない。)」をそれぞれ加え、一〇、一一行目の「有限会社マルニシ」を「有限会社マルシン」に改める。

2  同一七丁裏末行から一八丁表初行にかけての「第一の三2(3)(ア)」を「第二の三2(一)(3)(ア)」に改める。

3  同一九丁表初行全部を「同表30の収入額は、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第三八号証の一ないし三によって認められることができる。」に改め、二行目の「第二」の次に「(既出)」を加え、四行目の「有限会社マルニシ」を「有限会社マルシン」に、九、一〇行目の「金一九八三万〇一二五円」を「金一九八四万一八二五円」に、末行の「別表三」を「別表5」にそれぞれ改める。

4  同一九丁裏三行目の「一九八三万〇一二五円」を「一九八四万一八二五円」に、五行目の「金四五九万三二二五円」を「金四五九万六一七一円」にそれぞれ改める。

5  同二〇丁表二行目から二一丁表七行目まで次のとおりに改める。

「4 控訴人の必要経費に係る実額主張について

控訴人は、必要経費は原判決添付別表六のとおり昭和五五年分が金二五一八万三九四五円、昭和五六年分が金一三八五万六七一九円を下らない旨主張している。

(一)  まず、昭和五五年分の必要経費について検討する。

控訴人は総収入額を金二七八三万一九七五円と主張しており、必要経費が右主張のとおり金二五一八万三九四五円であれば、所得率が九・五一パーセント(なお、総収入金額が前記認定の全二九三二万〇三三五円であるとすれば、所得率は一四・一一パーセントである。)になることになる。しかし、既に認定したとおり、昭和五五年の同業者の平均所得率は二四・三八パーセントであることが相当であるから、控訴人の主張は、控訴人主張の必要経費が真実であれば、控訴人の収入金額が反面調査によって把握された前記認定の収入金額を相当程度超えている可能性があることになり、控訴人の収入金額が前記認定のとおりであれば、控訴人は必要経費を過大に主張している疑いがあることになる。そうとすれば、本件においては、控訴人は、どの範囲の収入に対して又は収入のどの項目に対して、どの項目の必要経費が支出されたかを立証しなければ、必要経費について実額を立証したことにはならなというべきであるが、そのような立証はされていない。したがって、控訴人の必要経費に係る実額主張・立証は、その余について判断するまでもなく、採用することはできないものである。

また、次の点においても、控訴人の必要経費に係る実額主張・立証は、採用することのできないものである。

必要経費のうちの捨場代について検討することとするが、控訴人の主張によれば、捨場代は金三五一万七八五〇円であり、うち金三〇五万四八五〇円が加藤剛に対する支払いである。そして、控訴人は、右支払を証明する証拠として、甲第一六号証の二、四及び八、第二七、二八号証並びに第五〇号証の一ないし三を提出しているが、右甲号各証は、いずれも金融機関の振込一括受託書、総合振込受取書、払込金受取書ないし払込金受取証であって、右のみでは、控訴人が加藤剛に対し前記金額を送金したことが確認できるだけで、それが捨場代であることを明らかにするものではない(甲第一六号証の四及び八、第二八号証並びに第五〇号証の二には、いずれも「捨場代」との記載があるが、その体裁からみて、後日に書き加えられたものであることは明らかであるから、右記載によって捨場代であると認められることはできない。)。右送金額が捨場代であり、右甲号各証が昭和五五年に作成されて控訴人方に保存されていたものであれば、その支払先や金額からして、控訴人が右送金額を捨場代以外の支払であると誤解したり、その合計額を誤ったりすることはないものと考えられる。ところが、控訴人は、原審において、昭和六〇年六月六日付け準備書面では二〇二万九五〇〇円、昭和六〇年一〇月七日付け準備書面では四〇九万二七〇〇円(そのうち加藤剛へ支払ったのは三六二万九七〇〇円)、右甲号各証を提出した後の昭和六三年一一月二一日付け準備書面では三五一万七八五〇円(加藤剛へ支払ったのは三〇五万四八五〇円)と主張しており、三木主張の変遷をみると、控訴人は前記加藤剛への送金額を捨場代として主張するかどうかを迷っていたものと窺われ、このことは右送金額が捨場代以外の支払である可能性を示すものである。また、控訴人は、原審における本人尋問において、加藤剛について、数百万円の取引があるというのに自分から連絡を採ったことがないと述べたり、その実在を確かめようとする質問に対して(なお、控訴人の昭和六〇年一〇月七日付け準備書面で加藤剛の住所とされている「戸田市笹目南町二一」には、成立に争いのない乙第三六号証によれば、当時同人の住民登録がされていなかった事実が認められる。)つかみどころのない応答に終始して具体性のある供述をしていないので、加藤剛が捨場関連の業者でない可能性がある。したがって、右甲号各証に加藤剛に対する損金額が捨場代であるとする控訴人本人の原審における供述を合わせ考慮しても、控訴人主張の加藤剛に対する送金額が捨場代であるとする事実を認めることはできないというべきである。なお、右各金員が捨場代以外の費目の必要経費になることを認めるに足りる証拠もない。そうすれば、控訴人の必要経費についての主張を、加藤剛に対する捨場代金三〇五万四八五〇円以外は、すべて真実であると仮定した場合、必要経費は金二二一二万九〇九五円であることになるが、既に認定した総収入額金二九三二万〇三三五円から右必要経費を差し引き、事業専従者控除額金四〇万円を控除して所得金額を算出すると、金六七九万一二四〇円になり、昭和五五年分の本件更正処分(裁決による一部取消後のもの)にかかに所得金額を上回るから、本件更正処分は適法であることになる。したがって、控訴人の必要経費に係る実額主張・立証は、その余について判断するまでもなく、失当である。

(二)  次に昭和五六年分の必要経費について検討する。

控訴人が主張する必要経費金一三八五万六七一九円を真実であると仮定した場合、既に認定した昭和五六年度の総収入額金一九八四万一八二五円から右必要経費を差し引き、事業専従者控除額金四〇万円を控除して所得金額を算出すると、金五五八円五一〇六円になる。これは昭和五六年分の本件更正処分に係る所得金額を上回るから、本件更正処分は適法であることになる。したがって、控訴人の必要経費に係る実額主張は、その当否にかかわらず本件更正処分の適法性に影響しないから、判断するまでもないものである。」

二  よって、以上と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石忠生 裁判官 大島崇志 裁判官 渡邉温)

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